彼女はその深夜の飛行機でチェコへ飛び、そこから、オーストリア、イタリア、フランス、スペインを回り、2月上旬にソウルへ帰ると云う。私は彼女が飛行機に乗る迄の時間潰しの相手となった。私は海外でよく韓国人とおしゃべりをする。お互い東洋人同士で接し易いからだろう。会話は英語になった。「11月にソウルに行ったよ。そして日本でね韓国映画“私の頭の中の消しゴム”とかウォンビンの“マイブラザー“も良かったよ」と話すと「ウオンビン大好き」と日本語が返った。
彼女はロンドンにいる友達の韓国女性をそのパブに呼んだ。しばらく3人で話をしていた時、彼女が異様な声を発した。足下に置いた小さめのスーツケースがなくなっていたのだ。私はすぐに表に飛び出し、付近を30分近く走り回り、それを持ち歩く人間がいないか捜しまわった。よくあることだが、金目のものを抜いてゴミ箱に捨てられていることも多い。大きなゴミ箱を幾つか覗いたがない。代わりに小さな布のバックが捨てられていた。
パブに戻ると、彼女は呆然とした顔で、どうしたらよいか途方にくれていた。約10万円の現金と衣服、そしてお土産やデジカメの充電器などが入っていると云う。私が探しに出ている間、彼女達はパブの防犯カメラの映像をチェックさせてもらっていた。後ろの客が持ち去るのが写っていたが、暗いパブで特定できる画像ではなかった。私は責任を感じて手持ちのポンド約5万円相当を差し出したが強く辞退された。私も何度か経験したことで、まだお金だけならまだいいが、さんざん撮影したデジカメを持ち去られた経験もあり、しばらくショックは残った。ロンドンは植民地時代からのつながりでアフリカ、インドからの移民者や、アラブ、アジアからの出稼ぎの人々も多く、社会的な差別もあり、その生活は楽ではない。最近のフランスの暴動もそれらの不満のうっ積が発端だ。ロンドンに限らず海外旅行では一瞬の油断も許されない。 |