#04

2004年夏 北海道バイク一人旅 その4


はっぴーとーく樹音 店主:東賢太郎(56才)

 

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<37年前の私に出会った>
 宗谷岬からオホーツク海沿いに網走に向かう海岸線は海からの横風が強く、バイク走行が危険に感じる程であった。ここで転倒してはつまらないと、途中の道の駅(全国区の観光道路に点在ドライバーのオアシス)で休むことにした。
 しばらくすると、よろよろよろけるように自転車が1台入って来た。よれよれのキャップをかぶり真っ黒に日焼けした顔で、千葉を出て2ヶ月、これから2年かけて日本を一周すると云う21才の男の子だった。小柄だがたたくましい顔の彼は「すぐそこで風にあおられて水辺に落っこっちゃいました」ニコニコと笑顔を見せながら云った。彼はバイトで溜めた旅費40万円を持ち、一日300円の食費だけで全国を回ると云う。

 「そうか、俺もな、君位の時に全国を自転車やヒッチハイクで旅したよ」等と風がおさまるのを待ちながらしばらく二人で話した。「そうですか、僕も頑張ります」と云う彼に私は「でもね、2年も旅し続けるのは後がつらいよ。社会復帰が難しいんだよ。頭の機能が旅する為のギアーに入りっぱなしだとなかなか通常の社会生活に必要なギアーへチェンジするのに時間がかかるのさ。だから時々家に戻ってバイトしたりしながら、又旅にでるのがいいと思うよ」と又余計なお節介を云ってしまった。しかしこれは事実で、私を含めて失敗例を何人か知っている。
 私も20歳前後の時、2〜3ヶ月かけて国内やヨーロッパをヒッチハイクした。彼に云いたかったのは、お金がなければ途中でバイトしながら社会と交わりお金を得て時には贅沢もしてみたらいい。途中で家に帰り、又旅にでるのもいい。確かに毎日旅の空にはドラマがある。しかし長い旅を終えて社会復帰するのが大変なのだ。人間の脳ミソの機能は考える内容によって使う脳が違う。旅の為の脳は活性化するが、日常生活や、仕事、人間関係の為の脳は使わないままだと知らず知らずの内に衰えて反応しにくくなるのだ。これはたった2ヶ月の旅でも十分経験した。
 「そうなんですか、分りました気をつけます。ありがとうございます」と素直な応えが返って来た。彼が旅に出たきっかけまでは聞かなかった。彼なら一日300円の生活で2年間の旅をやり遂げる事ができるだろう。しかしその過度の節約生活の価値観がからだの随まで生理的に染み付く恐れもあると思うのだ。しかし将来どんな苦境に遭遇しても自分だけは何とでも生きられる、と云う強い自信の男になることは確かだ。




<吉本興業の女性二人旅>
 その海岸道路で今度は女性二人の自転車旅行に遭遇した。こっちは吉本興業のお笑いコンビのような人達だった。私より重そうな体型の二人が汗をビッショリかきながら並んでペダルをこいでいた。
 数キロ先の「道の駅」で一緒になり、二人の旅の目的を聞いて「ヘェー!」を5回たたいてしまった。親友の二人はお互いの体重を何とか改善しようと、10日間で7キロ以上の減量を目標に北海道を走っていると云う。毎日朝8時にスタートし、一日50キロ目標に走る。平たんな道ばかりではない。丘と山と強い向い風もある。荷台には重い荷物がぎっしり。
 「それより自分の体重を一番恨むわよ」と云って笑う二人にはある約束が有った。どちらか先にギブアップしたら5万円の罰金を相手に払うと約束したのだ。「そうでもしないと二日と持たないわよ。でも今は5万払ってでもやめたい気持ち」だと二人は口を揃えて云った。「だからお互い毎日相手にギブアップさせようと必死よ」とジョークたっぷりに話してくれた。
 二人はきっと達成して、さらに友情を深めるだろう。「ゴールしたら冷たいビールで豪快に乾杯ですね?」「もちろんよ、でもとりあえず毎日ゴールしてるから毎晩乾杯してるわよ」「なぬ〜!」確かにその位楽しくやった方がいい。私が一服して出発する頃には二人は近くの芝生で顔にタオルをかぶって熟睡していた。




<サロマ湖の夕陽>
 稚内から300km以上は走っただろう。網走のすぐ隣のサロマ湖に着いた。「ここの夕陽は絶対見る」。宿泊より優先して夕陽スポットを探してまわった。湖の広さは川崎市の面積の半分位でオホ−ツク海に面してつながっている。湖に少し突き出た岬があった。
絶好の場所だ。既に沢山のテントが張られて、夕陽の方向をじっと見つめる人々の姿がシルエットとなって美しかった。


 「雲が切れてよかったよな、でもいいね〜こんな奇麗な夕陽は初めてだよ」と草むらに並んで座っている若いカップルに声をかけた「俺達もう3時間前からここで待っているんです」と待ちどうしそうに答えた。二人もバイクで本州から旅してきたのだ。暖かいコーヒーを御馳走になった。バーナーを使いサイホンで入れた本格コーヒーをアルミのカップで飲むのもアウトドアー派の楽しみだ。
 「夕陽が沈んだ後に、二人は熱いキッスを交わしテントの中へか、いいな〜ロマンチックで」とジョークを飛ばすと「やだわおじさん、今日ここで会ったばかりでまだ名前も聞いてないもん、ね」と彼女が照れながら云った。「あ〜、そーできたら幸せ〜」と彼氏が後ろにひっくり返りながら嬉しそうに云った。
 遠くの丘に沈みかけた夕陽は、澄んだ空とまわりの雲を赤く染めながら、風もなく鏡のような湖面の上を私達の方に向けて黄金色の光の帯びを引いてみせた。

つづく

 

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