#05

2004年夏 北海道バイク一人旅 その5


はっぴーとーく樹音 店主:東賢太郎(56才)

 

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 サロマ湖の夕陽が沈んだ後のキャンプ場にひとつ、ふたつ、とランプがともり始めた。テントも持参していた私はしばらくどうしようか考えた。近くでバーベキューをしているグループに誘われて美味しいスペアリブと冷たいビールも・・ちょこっと;;
 しかし風呂も入りたかったし、ユースホステルがすぐ近くにあると聞き野営はやめた。「我々のテントに泊ればいいじゃない」と、親切なお誘いも受けた。バイク仲間はそんな気さくな連帯感がどこへ行ってもあるから嬉しい。

 そこから5分の所にユースホステルはあった。15才の高校生と仲良くなった。私が小学生のころアメリカのテレビドラマ「ちびっこギャング」に登場した男の子、アルファルファにそっくりの子だった。髪の毛をグリスで上にピンと立てた細っそりしたと、か弱わそうな小柄な子だった。
 電車やバスを乗り継いで一人旅をしている。56才の私と遠慮せず対等に口をきく子だった。「君は偉い!大物になるよ。今の社会に遠慮することはない、どんどんつっぱしれ!」とエールを送った。逆に私が刺激をもらった感じでうれしくてしかたがなかった。
 このホステルもお客は少なかった。昔なら当日の飛び込み宿泊など考えられない程賑わっていたのに、今の若い人は海外や、国内でも軽井沢など賑やかな街がいいのだろうか。ほんとの自然の美しさや感動をもっと味わって欲しいと思う。

 翌日はもう何度も訪問している網走を素通りして平原や丘を越え阿寒湖に入った。20軒位の民芸品店が集まる通り「アイヌコタン:アイヌの集落」や付近の土産屋さんの通りを一般客は少なく通りにはバイクが50台くらいあった。皆へのお土産を買い、近くの湖畔で一服していたら若い女性がふたりで通りかかった。「コンチワ!」と声をかけたら、タイ人だった。インターシップで、近くの土産屋さんに一ヶ月の予定でお手伝いに来ていると云った。言葉は英語しか通じなかった。
 バイクに乗りたいと云うので店でヘルメットをかりて二人を交互に乗せて走ってやった。タイ語で大きな奇声を発しながら喜んだ。国では自分も毎日スクーターに乗って走っていると云う。店の人と言葉が通じず既に極度なホームシックにかかり帰りたいと漏らした。まだ二週間残っている。「日本人はシャイだから、でも北海道の人は皆心は優しいんだよ」と話すと、「ウン分る、でも又元気が出た」と笑顔になった。私の娘達と同じ年頃だ。
 店の前まで送ってあげた。買い物して少し店のおばさんと話した。「店が暇なんで、あの娘達の仕事が少なくてね、それを気にしてるんだよ。そんなこといいのにね。楽しんでもらえばいいのさ」とてもとても優しいおばちゃんだった。

 阿寒湖には泊らず一気に釧路を目指した。夕方の6時頃釧路に入った。まずビジネスホテルにチェックインし夜の街に出た。のけから女の子の客引きに出会った。
 「すみません煙草の火を貸してくれますか」おっ、来たな。「最近景気はどう?」、すると「えっ」と一瞬おどろいた顔をしたがすぐに「ダメよ、悪いよ。地元の人?どこから来たの?ゆっくり付き合うから遊んで」と腕に手をからませて来た。
 「うれしいけどさ、貧乏旅行だからお金ないんだよ、ゴメンね」しかし諦めずについて来た。「ねえ、どこかライブやっているところ知らないか?」「知らないわよ、まだ時間早いでしょう、ちょっといいじゃない」「だから俺は金がないの!それにもう疲れて体力残ってないもん」「ウソでしょう、じゃあ¥**位で」としつこい。結局10分位歩きながら世間話をして別れた。
 横浜の伊勢佐木町界隈のそれとは違い、一見すると普通のOL風の娘だったが化粧を見るとすぐわかる。若いころから旅の好きな私は日本各地や海外でいろいろな人のお誘いや「かっぱらい」にも遭遇している。今では挨拶を交わしただけでホモのおじさんも見分けられる。又その扱いもトラブルにならないように適当に会話するコツも覚えた。そして不謹慎かもしれないがその会話が楽しくもある。

 彼女に教えられた居酒屋に入った。昔よく流行った炉端風の、目の前で焼いてくれるカウンターだけの店だった。それぞれグループの客ばかりだったが、店の人とおしゃべりしていたら付近の客もその会話に加わってきた。
 「私も昔川崎の小杉に住んでいましたよ。溝口もよく行ったし」等と。旅の途中で撮ったデジカメ写真を見せたりして話をしていたら、「この人もバイクで旅するのよ」と女性が連れの男性を指差した。
 「そうなんですよ。去年オーストラリアを走ったけど、たまらないね平原を走ってると生きてるって感じで。途中で転倒して右足首を骨折したけどやめられないじゃないですか、分るでしょう」「分る分る!2度と出来ないかもしれないしね。多分僕もそうするよ」「うれしいね〜。分かってくれる人がいて。こいつは馬鹿じゃないのって云うんです。すぐ帰れって」すでに酒が回っている彼氏の声が我が意を得たりと大きくなった。
 すると彼女が「何云ってんの当然でしょう。そのお陰で半年びっこひいてんだから」ぶ然とした言い方にも、彼への愛情を感じさせるものがあった。「そのびっこも勲章なんだよね」と云う私の言葉に、彼の声が又大きくなった。「にいさん酒、酒、あの人に何かついでやって!」と興奮気味に云った。

 偶然出会った見知らぬ人同士の会話に何かに共感し心が通じると、それは大きな感動に増幅されるものだ。二度と会うこともないそんな人同士だから利害も駆け引きもなく全て素直に受け入れられる。私の旅は日常の生活から脱皮した心のリセットの旅だ。


つづく

 

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